支援される場ではなく、表現する場をつくる。
——studio FLAT kosugi(川崎市・武蔵小杉)武蔵小杉に、アートを通じて人と社会がつながる新しい拠点、studio FLAT kosugiが誕生しました。障がいの有無を越えて、一人ひとりの表現が社会とつながっていく場所です。
私たち株式会社MADARAは、この生活介護事業所のリノベーション設計・施工を担当しました。
studio FLAT kosugi(川崎市中原区)
「私はそんなことじゃないのに」
studio FLAT理事長の大平暁さんは、保育園のころから絵が好きな子どもでした。ただ、当時こんなことを感じていたそうです。
「心のままに自由に描きなさい」と言ってくる先生が、大嫌いだった。描きたいものは山ほどあるのに、どう描けばいいのか分からない。結局ぐちゃぐちゃに描いたら、「すごいわね」と褒められた。
「私はそんなことじゃないのに」と、いつも思っていた。
適当に褒める人ではなく、ちゃんと見てくれる人。大平さんの原点は、ここにあります。
「フラット」という言葉が意味すること
大平さんは多摩美術大学で絵画を学び、2019年5月、「障がいのあるなしに関わらず誰もがアートを通じて活躍できる社会」を目指してstudio FLATを設立しました。
ここでいうFLATとは、「障がい者アート」といった特別な呼称を超え、作品の魅力そのものをフラットに感じてもらうこと。福祉の枠組みを超えて、アートを介して人をつなぎ、新たな価値を創造する原動力とすることを目指しています。
大平さんは、こうも話しています。障がいのある人たちは集中力があってすごいことをする、という紹介のされ方が多い。でも本当は、アートの文脈の中で、一人の作家として紹介されてほしい。
保育園で「ぐちゃぐちゃでもすごいわね」と褒められた子どもが感じた違和感と、この願いは、まっすぐつながっています。
だからこの場所は、「支援される場」ではなく、アーティストが表現し、社会とつながる場として構想されました。
新川崎から、武蔵小杉へ
studio FLATは、新川崎に最初の拠点を持ち、活動を続けてきました。
その拠点は多くの成果を生み、利用希望者も増え、これ以上受け入れができない状況となっていました。そこで今回、第二の拠点として武蔵小杉に新しいアトリエを立ち上げることになりました。
単なる拡張ではなく、より社会にひらかれた形へと進化する拠点としての位置づけです。
ご縁がつながった場所
計画地は、コスギアイハグ内のテナントです。そしてそのすぐ横には、二ヶ領用水が流れ、緑道があります。
実はこの緑道は、以前に私たちMADARAが、水辺に人が集いまちと自然がつながる空間として、ランドスケープデザインと設計を行った場所です。
その目の前に、今回の拠点をつくりたいとご相談があったのですが、そんなことあります!?と思いました(笑)
すぐ横には、以前MADARAが設計した二ヶ領用水沿いの緑道があります
いま思えば、偶然というだけではなかったのかもしれません。まちにひらかれた水辺をつくった場所の目の前に、まちにひらかれたアトリエをつくる。同じ思想の空間が、同じ場所に二つ並んだことになります。
まちの中で積み重ねてきた関係性が、次の空間へとつながっていく。そんなプロジェクトでもありました。
武蔵小杉という土地が、歩いてきた道
設計の前に、この土地の文脈を読みました。
武蔵小杉は、かつて宿場町として人が行き交い、その後は工業地帯として「働く場」であったまちです。バブル崩壊後、工場の跡地に「人が住み、生活する」ことを重視したまちづくりが進み、いまではタワーマンションが林立する都市型住宅街になりました。
過去は「働く場」、現在は「住むまち」。では、未来は何になるのか。
新旧の住民が共生する、多世代・多様な人々が交流するまち。そこに、アートと社会包摂という新しい要素が加わったとき、このまちの次の姿が見えてきます。
ひらかれたアトリエ
このプロジェクトのコアコンセプトは、「ひらかれたアトリエ」です。
桜並木の下、川のせせらぎと芝生広場にひらかれる。
アートを介して、障がいの有無を越え、地域と世界をつなぐ。
「ひらかれる」という言葉には、二つの意味を重ねています。
ひとつは、物理的にひらかれること。二ヶ領用水の桜並木と芝生広場に向かって、室内と屋外をつなぐ。外から中の様子が見えることが、そのまま「ひらかれている」という状態になります。
もうひとつは、関係としてひらかれること。制作の場であるアトリエと、鑑賞の場であるギャラリー。それぞれの機能は明確に分けながら、一つのコンセプトで貫かれた空間として構成しています。「働く場」「見せる場」「交流の場」を統合した、インクルーシブ・アートハブとして。
武蔵小杉の過去(働く場)、現在(住むまち)、未来(共生都市)をつなぐ地域拠点になること。それが、この空間に託した役割です。
閉じた構成から、ひらかれた場へ
既存のテナントはクリニックになっており、内部が暗く閉鎖的な印象で、外から中の様子が見えにくい構成となっていました。
そのため、光を取り込み、外と関係を持つ空間へと再構築することが課題でした。また、福祉施設としての要件を満たしながら、空間としての魅力を高めることも求められました。
光を取り込み、外と関係を持つ空間へ
リノベーション後は、自然光を取り込む開口計画、明るさをコントロールした照明設計、木の質感を活かした素材選定により、やわらかく、ひらかれた空間へと再生しました。
照明と色彩は、明るく気持ちよく過ごせることと、作品の展示の邪魔にならないこと。この二つを両立させる必要がありました。ここは主役が人ではなく、作品である場所だからです。
来訪者が作品に触れる、ギャラリーの空間
空間は、その人のあり方を変えます。だからこそ、障がいのある利用者の作業所ではなく、アーティストの創作と表現のためのアトリエとして空間を設計しました。
「訪れたくなる場所」へ
2026年3月のオープン以降、すでに多くの反響が生まれています。
オーナーの大平さんからは、こんな言葉をいただきました。
「お客さんが来るたびに、素敵な施設ですね。生活介護の場所とは思えない、と言っていただけて嬉しいです」
この「思えない」という言葉自体が、まだ更新されていない常識を映しているのだと思います。生活介護の場所は素敵ではない、という前提が、無意識のうちにある。その前提が崩れていくことこそ、この空間の仕事なのかもしれません。
さらに、「子供にはここに入ってほしい」といった声も多く、この場所は、空間が見え方を変え、自然と人が集まる場所として機能し始めています。
こちらは制作のアトリエ。鑑賞の場と機能を分けながら、一つのコンセプトで貫く
空間は、人と社会をつなぐ
studio FLATが目指しているのは、アートを通じて人と人がつながり、社会との関係性が変わっていくことです。作品の販売を通じたアーティストの経済的自立支援や、近隣の学校と連携した作品展示など、その活動は少しずつ広がっています。
アートが、「特別なもの」から「日常の一部」へ。
まちにひらかれたアトリエは、生活介護事業所の見え方を変え、関係性を変えていきます。
支援される場ではなく、表現する場をつくる。
呼び方が変われば、その人の立ち方が変わる。
MADARAの設計は、
その場所で何をしたいのかを聞くことから始まります。
あなたの事業の話を、聞かせてください。