なぜ今、「一棟貸し」が選ばれるのか
近年、旅行や帰省、記念日の集まりなどで「一棟貸し民泊」を選ぶ人が増えています。ホテルや旅館のように部屋ごとに区切られるのではなく、建物まるごとを一組の宿泊者が独占できる。この当たり前のようでいて実は贅沢な体験が、多くの人の心をつかんでいます。
なぜホテルではなく、一棟貸しなのか。その理由を紐解いていくと、単なる「広さ」や「プライベート感」だけでは説明しきれない、宿泊のあり方そのものへの価値観の変化が見えてきます。
ホテルにはない3つの魅力
1. 複数グループでの宿泊も可能
一棟貸しの大きな特徴は、複数の家族やグループが一緒に泊まれることです。友人家族との旅行、親戚同士の集まり、会社の仲間との合宿など、ホテルだと部屋を分けて予約しなければならない場面でも、一棟貸しなら全員が一つの空間に集うことができます。
チェックインも一度で済み、鍵の受け渡しや部屋番号を気にする必要もありません。「みんなで来た」という体験そのものが、旅の記憶をより濃くしてくれます。
2. 大人数でも部屋がわかれず、同じ時間を過ごせる
ホテルでは、大人数で泊まっても結局は各部屋に分散し、顔を合わせるのは食事のときだけ、ということも珍しくありません。一棟貸しなら、リビングやダイニング、時には庭やテラスまでもが共有の場となり、誰かが料理をしている間に誰かがソファでくつろぎ、子供たちが別の場所で遊んでいても、家全体としての「同じ時間」を共有できます。
この「ゆるやかにつながっている感覚」こそが、一棟貸しが選ばれる本質的な理由だと言えるでしょう。
3. 気兼ねなく子供も遊べる
ホテルでは、廊下を走ったり大きな声を出したりすることに、どうしても気を遣ってしまいます。隣室への配慮、共用部でのマナー、時間帯への意識——それは当然のことですが、子供連れの旅行では大きなストレスにもなります。
一棟貸しであれば、隣に他の宿泊客がいないため、子供が声を上げて遊んでも、走り回っても、周囲に気兼ねする必要がありません。大人もまた、気を張らずに過ごせる時間が増えます。この「肩の力が抜ける」感覚が、リピーターを生む大きな要因になっています。
設計のポイント:「まるごと過ごせる家」をつくる
こうした一棟貸しの魅力を最大限に引き出すには、設計の段階で明確な意図を持つことが欠かせません。MADARAが一棟貸し施設の設計で大切にしている視点をいくつかご紹介します。
ゾーニングは「分離」ではなく「緩やかな連続性」で
個室はしっかりとプライバシーを確保しつつ、リビング・ダイニング・キッチンといった共用部は視線や気配がゆるやかにつながるよう設計します。完全に仕切るのではなく、建具の開閉や段差、素材の切り替えによって「ここからは共有の場」という感覚を空間そのもので伝えることがポイントです。
子供が安心して動き回れる動線
大人の視界が届きやすい回遊動線や、庭・土間といった「少々騒いでも良い」緩衝空間を設けることで、子供たちが自由に過ごせる環境をつくります。古民家や空き家をリノベーションする際には、既存の縁側や広い土間をそのまま活かせることも多く、これは新築にはない一棟貸しならではの強みになります。
大人数での滞在を支える「見立て」の思想
MADARAが大切にしている「見立て」の考え方は、一棟貸し施設の設計とも相性が良いものです。古い建物が持っていた記憶や素材の質感を活かしながら、大人数が集っても心地よく過ごせる余白のある空間をつくる。これは単なる機能的な間取り計画ではなく、「その場に集う人たちがどう時間を過ごすか」を想像することから始まります。
まとめ
一棟貸し民泊が支持される理由は、「広い」「プライベート」という表面的な魅力だけではありません。複数の家族が一緒に過ごせること、大人数でも一つの空間でゆるやかにつながっていられること、そして子供が気兼ねなく遊べること——これらはすべて、「誰かと過ごす時間の質」に関わるものです。
設計者としては、その時間の質をどう空間で支えるかを考え抜くことが求められます。古い建物をリノベーションして一棟貸し施設をつくる際にも、この視点を持つことで、単なる宿泊施設ではなく、訪れる人の記憶に残る「家」をつくることができるのではないでしょうか。