民泊(一棟貸し宿泊施設)のリノベーションを検討するとき、多くの方がまず「間取りをどうするか」から考え始めます。
しかし、私たちが数々の宿づくりを手がけてきて実感しているのは、間取りは「設計者が決めるもの」ではなく、「誰に泊まってほしいか」が決まった瞬間に、自然と見えてくるものだということです。
今回は、宿泊者に選ばれる間取りをつくるために、私たちが実際に考えているポイントをご紹介します。
間取りを考える前に確認すべきこと
具体的な部屋割りやベッドの配置を考える前に、まず整理しておきたい問いがあります。
- 何人で就寝できる宿にするのか
- ベッドで寝るのか、布団を敷くスタイルにするのか
- カップルや家族なら同じベッドで寝てもよいか、友人グループなら個別に寝室が必要か
- 宿泊人数に対して、水回り(トイレ・洗面・浴室)の数は足りているか
- 外からの動線(玄関からのアクセス、荷物の搬入、鍵の受け渡し)はスムーズか
これらは一見バラバラな検討事項に見えますが、実はすべて「誰が泊まるのか」という一点に集約されます。
設計から入ると、間取りは迷走する
「この部屋は何畳あるから、ベッドを2台置いて…」というように、空間のスペックから間取りを組み立てていくと、どこかで必ず矛盾が生じます。
たとえば、ファミリー向けに広めのベッドルームを1室つくったとしても、実際に集客したいのが「友人グループでの女子旅」だった場合、個々のプライバシーが確保しにくく、選ばれにくい宿になってしまいます。
逆に、カップル向けの静かな滞在を想定しているのに、水回りが1箇所しかない大人数対応の間取りにしてしまうと、宿としての「特別感」が薄まってしまいます。
設計そのものは間違っていなくても、「誰のための設計か」が曖昧なままだと、間取りは足し算的になり、結果として誰にも刺さらない宿になってしまうのです。
ターゲット設定から始めると、間取りは自然と決まる
私たちが提案しているのは、間取りの検討を「ターゲット設定」から始める方法です。
例:家族連れをターゲットにする場合
- 就寝人数:4〜6名を想定
- 寝具:子どもも安心して眠れる布団スタイル、または川の字で眠れる大きめの寝室
- 水回り:着替えや入浴が重なりやすいため、洗面台は複数、または浴室と別に手洗いを確保
- 動線:ベビーカーや荷物が多いため、玄関からリビングまでの段差や幅に配慮
例:カップル・夫婦をターゲットにする場合
- 就寝人数:2名
- 寝具:ダブルまたはクイーンサイズのベッド1台で、非日常感のある寝室に
- 水回り:露天風呂付きなど、体験価値を高める設備に投資
- 動線:プライベート感を重視し、外部からの視線が入りにくい玄関・アプローチ
例:友人グループをターゲットにする場合
- 就寝人数:4〜8名
- 寝具:個々のプライバシーを保ちつつ、リビングでは全員が集まれる大空間を確保
- 水回り:身支度の時間が重なるため、洗面台・トイレは複数箇所に分散
- 動線:大人数での出入りがしやすい、余裕のある玄関まわり
このように、ターゲットが決まれば、必要な寝室数、水回りの数と配置、動線の優先順位までが芋づる式に見えてきます。
間取りは「空間ブランディング」の一部
間取りとは、単なる部屋の配置図ではありません。
「この宿は、こういう人のための場所です」というメッセージを、空間そのもので伝える手段です。
ターゲットが曖昧なまま間取りを決めてしまうと、写真映えはしても予約が入らない、あるいは内見時の印象と実際の使い勝手にギャップが生まれる、といった問題につながりやすくなります。
逆に、ターゲットに合わせて間取りを設計すると、宿泊者は「自分のための宿だ」と直感的に感じ取り、それが選ばれる理由になります。
まとめ
民泊の間取りを考えるときに大切なのは、以下の順番です。
- 誰に泊まってほしいか(ターゲット)を明確にする
- そのターゲットが何人で、どんな寝方を望むかを想像する
- 人数に見合った水回りの数と配置を検討する
- ターゲットの荷物量や行動パターンに合わせた動線を設計する
間取りは「設計の出発点」ではなく、「ターゲット設定のゴール」として自然に導き出されるもの。
私たちMADARAでは、こうした空間ブランディングの視点から、既存の建物を活かした一棟貸し宿泊施設の企画・設計をサポートしています。