空き家900万戸という数字の意味
総務省が発表した令和5年住宅・土地統計調査によると、2023年10月時点で全国の空き家数は約900万戸、空き家率は13.8%にのぼりました。これは1993年の448万戸から30年で約2倍という数字です。総住宅数そのものが増え続けているにもかかわらず、空き家もまた増え続けている。つまり「家が余っている」というより、「使われないまま放置される家」が増え続けているというのが実態です。
このうち、賃貸用でも別荘でもない、いわゆる「その他の空き家」(相続や転居などで使われなくなった住宅)は385万戸。前回調査から37万戸増加しており、これが最も深刻な社会課題として扱われています。管理されない空き家は倒壊や不法侵入のリスクを生み、地域の景観や治安にも影響を及ぼします。2023年には空家等対策特別措置法が改正され、管理不十分な空き家への行政指導も強化されました。
空き家は「負動産」ではなく、編集可能な資産である
私たちが中古マンションのリノベーションで大切にしているのは、間取りや仕様から考えるのではなく、「その空間が誰の、どんな暮らしのためにあるのか」という概念から設計を始めることです。この考え方は、空き家の再生においても同じように機能します。
空き家は、使われなくなった時点で「価値がなくなった」のではありません。そこには、かつて誰かが暮らした時間、間取りの記憶、土地の立地、周辺環境という資産がそのまま残っています。リノベーションとは、それらを否定して更地に戻すことではなく、既存の建物が持つ文脈を読み取り、新しい使い方へと「編集」していく行為です。
空き家を宿泊施設として再生するという選択肢は、この「編集」の発想がもっとも力を発揮する分野のひとつだと感じています。
なぜ「宿泊施設」という選択肢なのか
空き家の活用方法には、賃貸住宅化、売却、解体して更地活用など複数の道があります。そのなかで宿泊施設への転用が注目される理由は、次のような点にあります。
立地の価値をそのまま活かせる
観光地や地方都市の空き家は、住宅としての賃貸需要は限られていても、旅行者にとっては魅力的な立地であることが少なくありません。駅からの距離や周辺の景観、地域の暮らしに近い環境そのものが、宿泊施設としての付加価値になります。
建物の個性が商品価値になる
賃貸住宅として貸し出す場合、間取りや設備の「使いやすさ」が重視されがちですが、宿泊施設の場合はむしろ、古民家らしい梁や無垢材の風合い、その土地でしか感じられない空気感が、選ばれる理由そのものになります。フルスケルトンリノベーションで構造を活かしながら、動線と意匠を今の暮らしに合わせて再設計することで、住宅としては難しかった間取りも、宿泊体験としては魅力に変わります。
収益不動産としての可能性
賃貸住宅は近隣相場に価格が縛られやすいのに対し、宿泊施設は宿泊単価や稼働率の設計次第で収益性を高めやすいという特徴があります。もちろん運営体制や許認可(旅館業法や住宅宿泊事業法など)の検討は別途必要ですが、「空き家のまま放置する」「安価に貸す」という選択と比べたとき、収益不動産としての可能性は大きく広がります。
収益不動産化という視点で見た空き家リノベーション
私たちがリノベーションのご相談を受ける際、特に空き家や中古物件の活用については、次の3つの視点から一緒に考えるようにしています。
- 過去(この建物が何を経てきたか):構造、築年数、周辺環境、これまでの使われ方
- 現在(今どんな制約と可能性があるか):法規制、耐震性、RC構造か木造か、電気設備の状態
- 未来(誰に、どう使われることでお金を生み続けるか):宿泊需要、地域の観光動線、運営のしやすさ
この順番で考えることが重要だと感じています。多くの場合「どんな宿にしたいか」というイメージから入りがちですが、それよりも先に「この建物は何を残せて、何を変える必要があるのか」を丁寧に読み解くことで、結果として無理のない、長く収益を生み続けられる計画になります。
空き家を、次の誰かの物語につなぐ
空き家は、それ単体では負担にしかなりません。しかし、そこに新しい使い方という編集が加わったとき、地域にとっても所有者にとっても価値ある資産に変わります。私たちがマンションリノベーションで大切にしてきた「暮らしの物語から設計する」という姿勢は、空き家の再生にもそのまま活かせるものだと考えています。
放置される前に、次の物語を描く。それが、これからの空き家との向き合い方のひとつだと思っています。