空間ブランディングとは何か。
——ブランドは、空間で完成するブランドという言葉を聞くと、多くの人は有名な高級ブランドを思い浮かべると思います。だから「うちの会社には関係ない話だ」と感じる方も多いかもしれません。
でも、ブランドは大きな会社だけのものではありません。
小さな会社にも、店にも、宿にも、ブランドはあります。というより、あなたが意識していなくても、すでにできています。あなたの会社に接した人の頭の中に、何らかの印象が残っている。それがブランドです。
だとすれば、問題は「ブランドを作るかどうか」ではありません。会社に接した人の頭の中を、どのように意図してつくるかです。
めーぷる MEGAドン・キホーテ横浜元町店(横浜本店)
誰も、空間そのものが欲しいわけではない
私はリノベーションの設計をしています。オフィス、店舗、宿泊施設、住宅。
オフィスを移転したい。店を出したい。宿を作りたい、こんな相談をいただきます。
でも、話を聞いていくと、本当に欲しいものは空間ではないことが分かります。
いい人が採用できる会社にしたい。選ばれる店にしたい。稼働の高い宿にしたい。長く快適に暮らしたい。空間は、そこへ行くための手段です。箱そのものが欲しい人は、あまりいません。
当たり前のことを言っているようですが、これは意外と忘れられています。
建築業界は、「作ること」が目的になっている
長く設計の仕事をしてきて、振り返ると思うことがあります。
建築業界は、作ることに特化しています。そして多くの場合、作ることが目的になってしまっています。
工務店は、図面があって、それを丁寧に、正確に作るのが仕事です。それが役割です。マーケティングや事業設計までは考えません。
設計事務所は提案をしますし、美しいものを作る事務所もたくさんあります。ただ、そこでも、マーケティングや収益設計まで踏み込むことは多くありません。
どちらも、自分の役割をまっとうに果たしています。
ただ、「ターゲットから逆算して、成果を上げるための空間を考える」という文化が、建築業界にあまりないと感じます。
だから、こういうことが起きます。美しい空間ができた。でも人が来ない。おしゃれなオフィスができた。でも社員は何も変わらない。作ることは達成されて、目的は達成されていない、なんてことになります。
だから、逆算から考える
図面から始めるのではなく、誰に、何を届けたいのかから始める。
そのために空間はどうあるべきかを考えて、デザインはその後にくる。私たちが最初の打ち合わせで空間の話をしないのは、そのためです。
ただし、成果から逆算して考えるというマーケティングの話だけではありません。
空間には、もうひとつ大事な性質があります。
空間には、その人が現れる
事務所を訪ねると、その会社が分かります。家に上がると、その人が分かる。宿に泊まると、どんな思いでつくったのかが伝わってきます。
私たちは、意識していなくても空間から人や会社を読んでいます。
だから空間に、現したいものを込めることができる。
何を大事にしてきたのか。何を目指しているのか。誰に来てほしいのか。それを空間に込めることができます。そして込められた空間は、説明しなくても、語り始めます。
東海道BEER川崎宿工場
なぜ、空間はそこまで残るのか
ブランドとは、その会社に接した人の記憶の中に残ったもの。そう考えると、理由がはっきりします。
ロゴやウェブサイトは、目だけで受け取るものです。しかも、見ているのは数秒かもしれない。
空間は違います。光の色、木の匂い、流れる音楽、素材の手触り、天井の高さから来る体の感覚。五感の全部が、そこにいる間に働いています。
しかも本人は、それを意識していません。「この天井は高いな」と考えているわけではない。ただ、なんとなく気持ちがいい、落ち着く、もう少し居たい。意識しないまま、深いところに入っていきます。
五感で受け取ったものが、精神に届く。それが体験になり、記憶になる。そして記憶になったものが、その会社や店や宿のブランドとして、その人の中に刻まれます。
パンフレットは読まれないかもしれません。でも、そこで過ごした時間は、忘れられない。
外にも、中にも、同時に効く
そしてもうひとつ。空間には、他の手段にはない性質があります。
ブランディングには、外向きと内向きがあります。外向きは、お客様や市場にどう見られるか。内向きは、そこで働く人がどう感じ、どう誇りを持つか。
空間は、この両方に同時に効きます。
訪れた人は、パンフレットより先に、その空間で判断します。そして、そこで働く人は、説明されるより早く、その会社が何者かを体で知っていきます。
HIROKAオフィスの執務スペース(徳島県鳴門市)
以前、徳島県鳴門市のIT企業のオフィスを設計しました。いちばんの課題は採用でした。完成後、役員の方からこんな言葉をいただきました。
「若い採用希望者の反応がいい」
「スタッフが前よりイキイキしている」
「銀行の心象がとてもいい」
採用希望者にも、既存のスタッフにも、取引先にも、同時に効いている。一つの空間をつくったことで、外への発信と、中の人の育成が、同時に始まっていました。
空間は、置き去りにされている
ここで、本題です。
ロゴ、ウェブサイト、名刺、パンフレット。どれも大事ですし、必要なものです。理念を言葉とデザインに落とし込み、外にも中にも一貫して伝えていく。きちんとやっている会社は、それだけで強い。
では、そのオフィスは。その店は。
ウェブサイトの中では洗練された会社なのに、実際に訪ねると雑然としている。理念に「人を大切に」と書いてあるのに、社員が働く場所は、予算を削られていてイマイチ居心地がよくない。
ブランディングとは、一貫性のことです。同じことを、どこでも言っている状態のことです。
にもかかわらず、いちばん長く人が過ごす場所が、その一貫性の輪から外れていては、一貫性をもってブランドを伝えられていないことになります。これは意識の問題でもあり、予算の問題でもあります。空間にかかるお金は「工事費」として計上され、自分たちの事業のブランドをつくる投資として考えられていないからです。
外向きの体裁は整えた。でも、毎日過ごす場所、お客様が来る場所、働く場所が、そのイメージと一致していない。それでは、ブランドは完成しません。
空間まで表現しきって、ブランドは完成する
理念が、イメージ(ロゴ・ウェブ・言葉)でも、空間でも表現される。
言っていることと、実際に居る場所が、同じことを語り始める。見た目と実体が一致する。
そのとき初めて、ブランドは完成し、成果が加速します。
これを、私たちは「空間ブランディング」と呼んでいます。
新しいことをしようという話ではありません。すでにブランディングに取り組んでいる会社ほど、あとは空間で完成するという話です。
用途は、関係ありません
宿でも、オフィスでも、店舗でも、あるいは住宅でも、起きていることは同じです。
だから私は、用途で手順を変えません。どれも、その方の人生を聞くところから始めます。何を大事にしてきて、これからどこへ行こうとしているのか。それを空間に翻訳していく。
事業であれば、それは成果になります。住まいであれば、それは日々の豊かさになります。空間に人生や思いが現れるということの意味は、どちらでも変わりません。
考えることと、つくること
世間では企業をブランディングしてくれる会社があります。ブランディング会社は理念やコンセプトとなる言葉を伴走して考えてくれます。ただ、空間デザイン設計まで手掛けている会社は少なくて、大体は設計事務所や工務店に外注をするのが普通です。
理念を考える人と、空間をつくる人が別々だと、どうしても伝言になります。「こういう理念だから、こんな空間で」と伝えても、その理念の本当に深いところまでは、なかなか伝わりません。結果、なんとなく雰囲気の合った空間にはなっても、理念が細部まで宿った空間には、なりにくい。
私は、その方の人生と目的を聞くところから始めて、コンセプトをつくり、そして一級建築士として、実際に図面を引き、素材を選び、現場まで見ます。
考えることと、つくること。その両方を、ひとつの手でやる。
だから、最初に聞いた「その方が本当に大事にしていること」が、壁の素材や、光の色や、動線の一つひとつにまで、解像度を落とさずに宿ります。
空間は、あなたやその事業が何者かを語り続ける
そして、そこに接した人の記憶に残り、あなたのブランドになっていきます。
だからこそ、何を込めるのかを決めるところから、設計は始まります。
あなたの空間は、あなたやあなたの事業のこと、
あなたの想いを正確に語る空間になっていますか?
ブランディングは一貫性をもって伝えることです。
あなたの想いを空間に表すのが空間ブランディングです。