「空間は、人を変える」 ——この言葉が生まれるきっかけとなった出来事
MADARAの根幹にある信念は、一組の夫婦の家から生まれました。
設計の仕事を続けるなかで、ずっと心のどこかにあった思い込みがありました。
完成したばかりの家はきれいだけれど、使われるうちにだんだん散らかり、汚れたり雑然としていく。家は、時間とともに少しずつ価値が下がっていくものだと思っていました。
その思い込みが、静かに覆された日があります。
若いご夫婦のマンションリノベーションを手がけたときのことです。
リノベーション前の状態
ご夫婦はかつてバンクーバーに暮らしていました。その記憶を大切にしながら、今は夫がギターを弾く部屋がほしい。そして将来は子どものための部屋にしたい。友人を呼んでみんなで鍋を囲みたいなど、お家を設計する中で話してくれたことです。
過去の記憶、現在の暮らし、未来への願い。その3つを一緒に空間に織り込んでいきました。
竣工して、お引き渡しした。
リビング
趣味部屋(将来は子ども部屋に)
一年後、無垢のドアが少し閉まりにくくなったとのことで、手直しにそのお部屋を訪ねました。
どんな風になっているかな、きれいに使ってもらえているかな、大丈夫だろうか——そんな気持ちで。
扉を開けて、驚きました。
完成直後よりも、さらに素敵になっていたのです。
整理整頓されて、掃除が行き届いている。
新しい家具が増えていて、インテリアがさらに素敵に整っている。
この空間を、楽しんで工夫している——そのことが伝わってきました。
思わず、こう声をかけていました。
「できた直後より、素敵になっていますね!」
するとクライアントは、嬉しそうにこう言ってくれました。
「高瀬さんと一緒につくった大切な家なので、もっと良くしたくなるんです。楽しんで工夫しているうちに、意識も変わって、丁寧に生活ができるようになりました。」
その言葉を聞いたとき、ただ純粋に、うれしかった。
同時に、ひとつの認識がひっくり返りました。
空間は、人の意識を変えるものなんだ——と。
そのときはまだ、うまく言葉にできていませんでした。しかしその体験はずっと心に残り続け、数年後、ひとつの確信になりました。
空間は、人を変える。
人が空間を大切にすると、空間はさらに質が高く豊かになる。
その豊かさが、また居心地の良さとなって人に返ってくる。
喜びが喜びを生む。
この循環が始まる場所をつくること。
それが、MADARAの仕事です。
ただ、一つだけ、しばらく解けない疑問が残っていました。
なぜあの家は、時を経るごとに良くなり続けたのか。空間が人を変えることはわかった。でも、なぜあの家だったのか——。