横浜のカフェ、フタバストアの店舗設計記録
和のヒノキと西洋のレンガが、調和する空間。ブルックリンと横浜が出会う、南区の文化拠点——記憶と出会いが交差する場所。
和のヒノキと、西洋のレンガ。まったく異なる文化的背景を持つ二つの素材が、横浜市南区の小さなカフェに共存しています。一見するとバラバラな素材で、同じ店内内装には相応しくない組み合わせです。
なぜ、そんな組み合わせにしたのか。そして、なぜ、ぶつかるのではなく、調和しているのか。
答えはこのカフェができた物語の中にあり、それを知ると、この空間の見え方が変わります。
フタバストア 店内全景
代々、この土地で生きてきた
廣瀬さんのご家族は、代々横浜市南区で日用品問屋を営んでこられました。しかし時代が変わり、大手の参入によって問屋業は衰退していった。その後、土地にマンションを建設し、現在は大家業・投資家として経営されています。
この土地で、代々商売をさせてもらってきた。その感謝と愛着が、廣瀬さんの根っこにあります。
もう一つ、廣瀬さんの人生に深く刻まれているものがあります。若い頃、ニューヨークのブルックリンでダンスを学んだ記憶。レンガの街並み、音楽、ダンス、ファッション。アートと多様性が息づく街の空気が、廣瀬さんの中にずっと生き続けています。
薬局だったテナントが、空いた
リノベーション前——薬局だったテナント。左:MADARA高瀬。右:オーナーの廣瀬さん。
もともとこのテナントは薬局でした。薬局が退去して空室になったとき、新しい入居者を入れることもできた。でも廣瀬さんは、自らこの場所で何かを始めることを選んだ。
「何か新しいことを始めたい。でも、何が自分とこの土地にとって本当に正しい答えなのか、まだ見えていない。」そんな段階でした。
MADARAは最初に、業態の提案をしませんでした。まずオーナーの話を聞くことから始めました。
目的が見えてきた
廣瀬さんの人生を丁寧に聞いていくと、目的が言葉になっていきました。
この土地への感謝を形にしたい。地域の人が集まり、緩やかにつながれる場所をつくりたい。食・アート・音楽という文化の拠点にしたい。人と人の交流を促すことで、吉野町エリアに新しい息吹をもたらしたい。
「何から始めたらいいか分からない」という状態からスタートしましたが、人生の背景を深掘りしていくと、目的が自然に浮かび上がってきたのです。答えは最初からオーナーの中にあった。それを引き出すために、まず人生の話を聞く。これが目的思考の出発点です。
ブルックリンと横浜が出会う——コンセプトが生まれた
「ブルックリンと横浜が出会う、南区の文化拠点——記憶と出会いが交差する場所。」
ブルックリンの風景——レンガの街並み、音楽、ダンス、ファッション。廣瀬さんがその空気の中で育てた感性。
横浜の記憶——開港から続く異文化交流の港町。赤レンガ倉庫。花街として栄えた南区吉野町。桂歌丸さんが生涯暮らした真金町。三吉演芸場で今も続く大衆芸能。
そして南区・吉野町エリアの未来——食・アート・音楽が交わる文化拠点として、人と人の交流を促すことで、この街に新しい息吹をもたらしたい。
過去と現在と未来が、この55㎡に内包されています。
和のヒノキと西洋のレンガが調和する理由
素材が決まりました。レンガとヒノキ。
レンガはブルックリンの街の風景です。廣瀬さんがダンスを学んだ街の記憶。そしてレンガといえば横浜赤レンガ倉庫とも重なります。
カウンター——木材とレンガの素材を生かしたデザイン
レンガのディティール
ヒノキは横浜南区への感謝と誇りです。日本の舞台芸能では「檜舞台(ひのきぶたい)」という言葉があります。フタバストアの奥にある造り付けテーブルはヒノキでできていて、この「ヒノキブタイ」を表現しています。そのヒノキブタイには、松の盆栽が添えられています。
ヒノキブタイ——南区の大衆芸能文化を空間に表現
ヒノキブタイには松の盆栽
ヒノキとレンガ。まったく異なる文化的背景を持つ素材です。でもこの二つをつないでいるのは、廣瀬さんの人生のストーリーです。横浜南区への感謝と誇り。そしてブルックリンへの記憶。その両方が廣瀬さんの中に生きているから、ヒノキとレンガは同じ空間で共存調和できるのです。
ただ素材を置いただけでは成立しない。オーナーの人生を通して初めて、異素材が接続され調和する空間が生まれているのです。
屋外のデッキスペース——横浜大桟橋からインスパイアされたイペのウッドデッキ
外観からの眺め
動き続けるコミュニティ拠点へ
シェアキッチンでは日替わりでシェフが入れ替わるシステムを導入。ギャラリーではアーティストが個展を開き、音楽イベントも開催されています。物販スペースでは、個性ある作家の作品も販売されています。食とアートと音楽の循環が、自然と生まれる仕組みです。
ギャラリーとして使ってくれるアーティストが増え、その友人や取引先が訪れ、また別のアーティストが利用してくれる。シェアキッチンを使って営業する料理人も現れています。フタバストアは、地域の人・アーティスト・クリエイターが交わる「動き続けるコミュニティ拠点」へ育っています。
夜のバータイム——陰影ができる照明計画で落ち着いた空間
夜の店内——多用途に使用できる空間設計
夜の入口——スポットライトがエントランスを照らす
廣瀬さんの声
「最初から最後まで私の考えに寄り添っていただき、ベストの設計をしていただけたと思います。」
「素敵に仕上げていただいたおかげで、どんどんお店に愛着が湧いてきております。」
オーナーの人生ストーリーと目的やビジョンが宿った空間だから、愛着が生まれる。愛着が生まれるから、大切にしたくなる。大切にするから、空間はさらに豊かになっていく。
オーナーの人生を聞き、目的を深掘りし、
文脈を読んで空間を立ち上げる。
その空間が人を呼び、人がまた人を呼ぶ。
喜びが循環する場所が、ここに生まれました。
MADARAの設計は、お話を聞かせていただくところから始まっています。
あなたの人生の話を、聞かせてください。
あなたの空間づくりについて、まずお話を聞かせてください。
どんな経緯で、どんな空間をつくりたいのか。
その話から、一緒に始めましょう。
※ご相談は無料です