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桜を「花吹雪」と見る。
それが、見立てという設計。

2026.07.11(Sat)

思想高瀬ブログ

桜を「花吹雪」と見る。それが、見立てという設計。
Philosophy / Method

桜を「花吹雪」と見る。

——それが、見立てという設計

前回、「デザインは、いちばん最後でいい」という話を書きました。目的・市場・コンセプトが決まって、はじめてデザインに手をつける、と。

では、決まったコンセプトを、どうやって実際の空間に変えるのか。

その翻訳の作業を、MADARAは「見立て」と呼んでいます。今日は、この見立ての話をします。

見立てとは何か

桜が散るのを見て、私たちは「花吹雪」と言います。

ただ花びらが落ちているだけなのに、そこに”吹雪”を重ねて見ている。これが、見立てです。

目の前のものを、そのままではなく何かとして見る。あるものに、別の意味を重ねる。日本人が昔から持っている、心の働きです。

もっと身近なところにも、見立てはあります。

実は、ダジャレもそうなんだと思います笑。

「トイレに、いっといれ」——これは「行っといで」と「トイレ」を、ほとんど同じ音の上に重ねている。くだらないですよね笑。でも、聞いた瞬間に、頭の中で二つの意味がパッと同時に立ち上がる。あの感じ。

あれこそ、見立ての正体です。

桜を花吹雪と見るのも、トイレのダジャレで笑うのも、やっていることは同じ。あるものに、別のものを重ねて見る(聞く)。最高に美しいものから、最高にくだらないものまで、同じ一つの心の働きでつながっています。

日本文化に、脈々と流れる「見立て」

見立ては、日本文化の中に脈々と流れてきた、美を生む思考技術のひとつです。

日本人は昔から、この「重ねて見る」力で、さまざまな美を生んできました。

和歌では、月にただの天体ではなく、遠くの人を想う心を重ねました。桜に、命のはかなさを重ねました。

枯山水の庭では、石を山と見て、白い砂の模様を水の流れと見ます。水を一滴も使わずに、大海原を表現してしまう。

盆栽は、小さな鉢の中に、大自然の風景を見る芸術です。

茶道では、漁師の魚籠を花入れに、井戸の釣瓶を水指に。日常の道具を、別のものに見立てて使ってきました。

どれも、「ないものを足す」のではありません。すでにそこにあるものの中に、まだ見えていない価値を見出している。これが、見立てという思考技術です。

見立ては、今も生きている

そして大切なのは、見立ては遠い昔の話ではない、ということです。

桜を花吹雪と見る私たち。ダジャレを言って笑う私たち。その中に、見立ての心は今も生きています。「重ねて見る」というのは、私たちの精神性に、今も息づいているのだと思います。

そして私は、この生きた見立てを、空間づくりに使っています。

古い建物を、ただの古い建物として見ない。その中に、まだ語られていない物語を重ねて見る。それを、実際の空間に翻訳していく。

では、具体的にどうやって「重ねて見て」いるのか。次は、実際の現場の話をします。

見立てを、空間に使う

決まったコンセプトを空間に翻訳するとき、私は二つの方向で「重ねて見て」います。

ひとつは、素材やディテールに、意味を重ねること。ある素材を、ただの素材としてではなく、物語を宿したものとして見る。

もうひとつは、空間の構成や使い方に、意味を重ねること。間取りや動線を、ただの機能としてではなく、体験を生む仕掛けとして見る。

この二つは、どの案件でも同時に働いています。実際の現場を、二つご紹介します。

実例①|レンガを、故郷の記憶と見る(横浜・フタバストア)

フタバストア 店内全景

フタバストア(横浜・南区)— レンガとヒノキが調和する店内

横浜市南区の小さなカフェ、フタバストア。この空間には、西洋のレンガと、和のヒノキが同居しています。

本来なら、ぶつかるはずの異素材です。でもここでは、調和している。

オーナーの人生の物語を、素材に重ねて見立てたからです。

レンガは、オーナーが若い頃ダンスを学んだブルックリンの街並みであり、同時に横浜赤レンガ倉庫の記憶でもある。ヒノキは、代々この土地で商売をさせてもらった南区への感謝と誇り。日本の芸能でいう「檜舞台(ひのきぶたい)」を、店の奥に見立てました。そこには松の盆栽を添えています。

ヒノキブタイ — 南区の大衆芸能文化を空間に表現

ヒノキブタイ — 檜舞台に見立てた造り付けテーブルと、松の盆栽

枯山水が、石を山と見て、砂を水と見たように。フタバストアは、レンガを故郷の記憶と見て、ヒノキを土地への誇りと見た。

素材をただ置いただけでは、この調和は生まれません。オーナーの物語を通して重ねて見たとき、はじめて異素材が一つの空間になりました。

実例②|壁を、農地の風景と見る(東京・新小岩)

新小岩の宿泊施設 — 農の風景を見立てた空間

新小岩・一棟貸し宿泊施設 —「江戸アート×農×インバウンド」を体現した空間

東京・新小岩の一棟貸し宿泊施設。ここでは、「江戸アート×農×インバウンド」というコンセプトがありました。

江戸時代から続く農の土地。代々その土地を守ってきたオーナー一族の「本業は農家だ」という誇り。その物語を、空間の隅々に見立てていきました。

壁には、畑の向こうに連なる山脈を。タイルには、田んぼの水面に広がる水紋を。和室には、農作物をしまう納屋の記憶を。

田んぼの水面のような水紋のタイル

田んぼの水面を見立てた、水紋のタイル

ここでも、やっていることは枯山水と同じです。目の前の壁を、ただの壁として見ない。その向こうに、この土地が抱いてきた農の風景を重ねて見る。

泊まった方からは「建物に入った瞬間に歓声が上がった」という声をいただきました。物語が空間に宿ると、それは理屈ではなく、体験として伝わります。

見立てとは、すでにある物語を、空間に重ねること

二つの事例に共通しているのは、一つのことです。

「ないものを足した」のではなく、「すでにそこにある物語を、重ねて見た」。

フタバストアのレンガも、新小岩の壁も、どこにでもある素材です。でも、その土地とその人が持っている物語を通して見たとき、それは唯一無二の空間になる。

桜を花吹雪と見る心。石を山と見る枯山水。あれと、まったく同じことを、私は空間でやっています。

見立てられた空間は、育っていく

そして、見立てには、もう一つ大切な働きがあります。

その人の物語が重ねられた空間は、大切にしたくなるのです。

フタバストアのオーナーは、こう言ってくれました。

「素敵に仕上げていただいたおかげで、どんどんお店に愛着が湧いてきております。」

自分の人生の物語が宿っているから、愛着が湧く。愛着が湧くから、手をかけたくなる。手をかけるほど、空間は豊かになっていく。豊かになった空間が、また人を呼ぶ。

そして、この物語に参加できるのは、オーナーだけではありません。

フタバストアに来た人は、ブルックリンと横浜が出会う物語の中に、自分も入り込む。新小岩に泊まる人は、江戸の農の物語を、一晩、自分のものにする。物語のある空間は、来た人を”登場人物”にします。だから、記憶に残り、また来たくなり、誰かに話したくなる。

見立ては、空間をつくるだけではありません。そこに集う人と人を、一つの物語でつなぐのです。

見立ては、完成がゴールではありません。そこから始まる循環の、起点をつくる仕事です。

デザインは、いちばん最後でいい。
目的を聴き、市場を読み、物語を束ね、
そして見立てで空間に翻訳する。
その積み重ねの果てに、
大切にしたくなる空間が生まれ、育っていく。

それが、MADARAの設計です。

→ フタバストアの設計施工事例を見る
MADARAの根幹記事 ——この6本から読んでください
  • ▶ モノづくりの原体験
  • ▶ 空間は、人を変える
  • ▶ なぜあの家は、時を経るごとに良くなったのか?
  • ▶ 愛の本質は、一体感
  • ▶ 建てない建築士という選択
  • ▶ なぜ初回打合せで空間の話をしないのか

あなたの物件にも、まだ語られていない物語が眠っています。

その物語を、一緒に見つけて、空間に翻訳しませんか。

※ご相談は無料です

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